機能不全家族の中で生きづらさを抱えたアダルトチルドレンは、成長しても自己否定感やトラウマ、人間関係の距離感のとり方の難しさという問題を持っているといわれます。
それでも適切な支援を受ければ、時間はかかりますが、回復の道をたどることが可能です。
後編では、アダルトチルドレンの適切な支援と回復の道すじについてお話しします。
1 心理的支援の重要性
アダルトチルドレンの支援には、心理的支援が欠かせません。
カウンセラーとの1対1の関係の中で、まずは、適切な距離感と信頼関係を築くことが必要です。
アダルトチルドレンが安心できる場で、自分の認知のゆがみや、トラウマに少しずつ向き合う力を養っていくことになります。
1-1 カウンセリングの具体的な方法
アダルトチルドレンのカウンセリングの方法は、大きく分けて3種類あります。
①個別カウンセリング(認知行動療法、EMDR※、エモーション・フォーカスト・セラピーなど)
※EMDR:「眼球運動による再処理法」と訳され、PTSDの治療に用います。眼球運動を使いながらトラウマの記憶を処理し直し、苦痛を軽減する心理療法です。
②グループカウンセリング
③自助グループ
それぞれ説明していきます。
①個別カウンセリング
アダルトチルドレンはまず最初に心理カウンセラーと決められた時間・場所で、適切な距離を取りながら1対1の信頼関係を個別カウンセリングでしっかり築いていきます。
その中で、自分が幼いときに受けたトラウマや当時感じた感情と少しずつ向き合い、フラッシュバックを克服していきます。
ほかにも、親から学習したゆがんだ認知を、認知行動療法などを通して修正していきます。
そのような心理療法を通して、少しずつ自己肯定感を取り戻したり、自分を見つめ直したりするようになっていくのです。
②グループカウンセリング
グループカウンセリングは、一部の医療機関やカウンセリングルームで行われています。
まだ自助グループに入るのは難しそうな人たちが、自助グループに入る前にグループカウンセリングを行うことが多いです。
グループカウンセリングは、次に解説する自助グループとはちがい、カウンセラーも入り、複数の相談者と一緒にカウンセリングを行います。
グループカウンセリングのメリットは、同じような問題を抱えた人の話が聴けること、同じ問題を抱えている人たちに自分の話を聴いてもらえることです。
自分の悩みを聴いてもらえることはもちろん、客観的にほかの人がどう対応しているのか聴くことも、治療になります。
ただし、個別カウンセリングのときほどカウンセラーと相談者は密な関係ではないため、相談者がまだ解決していない問題についてはなかなか話題にしにくいかもしれません。
(信田さよ子 (2021). 『アダルト・チルドレン:自己責任の罠を抜けだし、私の人生を取り戻す』 参照)
③自助グループ
自助グループは、専門家は一切入らず、アダルトチルドレン当事者同士で集まって進めていきます。
医療機関のお部屋を借りて行ったり、公民館などを借りて行ったりします。
自助グループには進行役(ファシリテーター)はいませんので、グループを進めていくための3つの約束が決められています。
✓出てきた話については口外しない
✓ひとりひとりの話す時間を考慮する
✓言いっぱなし 聞きっぱなしにする
最後の「言いっぱなし 聞きっぱなし」というのは聞き慣れないかもしれません。
これは、出てきた話については一切批判や意見をはさまずに聞く、というルールです。
このような自助グループで得られる効果としては、お互いの話を聞き、自分の話をすることによって、お互いの気持ち・境遇・症状を共感し合えることで共感の中から少しずつ成長・回復への道が開けてくるでしょう。
1-2 自己理解と心理教育
アダルトチルドレンは、自分のことを過小評価していたり、自己否定的でゆがんだ自己イメージを持っていることが多いといわれています。
自分の価値を認めたり、自己肯定感を持てるようになることで、回復の道に向かうことができるでしょう。
そのため、カウンセリングや自助グループなどを利用し、「等身大の自分」「ありのままの自分」を理解し、認める作業が必要です。
しかしこれには時間がかかる人もいます。
そんな時に自己理解のひとつの助けになるのが、心理教育です。
トラウマと向き合う間には、当然混乱することもあります。
心理教育の中で、トラウマからの回復の過程について、しっかり学んでおく必要があります。
そうすることで、時々自分の心に揺り戻しがきたとしても、アダルトチルドレンの本人がダメージを最小限に食い止めることができるでしょう。
2.社会的支援と社会資源
アダルトチルドレン個人のケアが進むと、次は機能不全家族から距離を取るために「自立」ということが課題になります。
ただ、自立をするにしても、たとえば家を借りるだけでも連帯保証人が必要だったり、何かと「家族の同意」が求められます。
そこで、アダルトチルドレンの自立を考えた時、福祉のサポートが必要になります。
具体的には
✓医療機関や福祉サービスの利用
✓行政や地域の支援サービス
です。
2-1 医療機関や福祉サービスの利用
まず、アダルトチルドレンを専門に診てくれる医療機関を探す必要があります。
ご自分でインターネットで探しても良いですが、情報が不足していたり、今ひとつ決め手に欠ける、ということもあるのではないでしょうか。
保健所(保健センター)の、お住まいの担当保健師にまず相談してみましょう。
保健師は医療機関の情報をたくさん持っています。
同時に、医療機関に安くかかることができる制度もあり(自立支援医療)、この手続きをするのは市区町村役場や保健所などです。
また、1人暮らしをするのにまだ自信がない場合、グループホームへ入居するという方法もあります。
グループホームとはいっても、少人数で共同生活(部屋は分かれていますが)するところもあれば、アパートタイプで基本的にほかの人と顔をほとんど合わせないところもあります。
就労に関しても、まだ社会に出ていくのに自信がない場合、福祉的な就労や、就労移行という訓練の場もありますので、利用してみるのも良いでしょう。
当面のお金がなく、身内を頼ることもできないという状態であれば、一時的に生活保護を申請することもできます(生活保護を受けるための一定の要件があります)
一定の要件につきましては、
生活保護制度 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)をご参照ください。
できれば福祉のサポートを借りて、医療機関や地域活動支援センターなどのケースワーカーと一緒に申請に行けると安心でしょう。
(自立支援医療(精神通院医療)について | 厚生労働省 参照)
2-2 行政や地域の支援サービス
行政や地域でも、使える支援サービスは多くあります。
たとえば、グループホームを出なくてはならなくなったときに、市営住宅や県営住宅などの申し込みをして、安く住居を手に入れることもできます。
ご家族の経済状況が悪く、職業生活にあたって十分なスキルを身につけることができなかった場合に、ハローワークで職業訓練※を受けることも可能です。
職業訓練※:ハロートレーニング(公的職業訓練)のご案内 (就職に向けてスキルを身につけたい方へ) | 千葉労働局 (mhlw.go.jp) 参照
ほかにも、都道府県にある精神保健福祉センターや、市区町村にある保健センター、医療機関などでデイケアに通い、対人関係に慣れていくこともできます。
医療機関に福祉のソーシャルワーカーがいれば、地域の資源を知っていますので、教えてもらいましょう。
医療機関にいなければ、行政機関にもケースワーカーがいますので、詳しくはお住まいの地方自治体に聞いてみると良いでしょう。
3.アダルトチルドレンの回復のステップ
アダルトチルドレンは、幼少期から断続的、あるいは継続的に機能不全家族の中で虐待やネグレクトその他、不適切な育児を受けてしまっているため、回復にもそれなりに時間がかかることがあります。
ここでは、
✓アダルトチルドレンの回復のステップ
についてお話しします。
アダルトチルドレンの回復のステップは、大きく分けると4つに分かれます。
①過去に空いた自分の穴を探るステップ
②過去と現在をつなげるステップ
③自分を苦しめる考え方を別のものに置きかえるステップ
④新しいスキルを学ぶステップ
それでは、具体的にみていきましょう。
①過去に空いた自分の穴を探るステップ
アダルトチルドレンの人がこれまで思い出さないようにしていた過去の問題や、自分の中に「何かが欠けている」ということに気がつく段階です。
それまで、アダルトチルドレンは自分の家庭しか知らなかったので、
「自分の家のことが当たり前だと思っていた」
という人は多いです。
過去と改めて向き合い、それまで押し殺してきた感情が生々しくよみがえる段階でもあるので、アダルトチルドレン本人にとっても苦しい時期です。
中には不適切な強い怒りを感じる人もいるかもしれませんが、親を責めるためにこの過程を行っているのではありません。
あくまで本人が過去を受け入れ、自分の感情に気づくためのステップなのです。
②過去と現在をつなげるステップ
①で自分の持っている感情に気づけたら、次はこの感情に振り回されず、自分を冷静に振り返るステップに入ります。
過去に持っていた感情が、現在の自分の自己イメージや人間関係などにどのように影響しているか、どう現在につながっているかを探っていきます。
たとえば、親が自分を十分に愛してくれなかったことが、ほかの誰かとの依存関係につながっている、など、現在につながるものが見つかるでしょう。
過去の感情と現在の自分をつなげることで、現在の自分の課題が浮き彫りになるのがこのステップなのです。
③自分を苦しめる考え方を別のものに置きかえるステップ
このステップでは、過去から自分を苦しめてきた考え方を、別の、より安全なものに置きかえていくステップになります。
たとえば、「~しなくてはならない」という強い考え方があるとします。
「私はいい子でいなければ存在している意味がない」
というところから、「私は必ずしもいい子でいなくても存在していていいんだ」というふうに置きかえていくのです。
長年の考え方ですから、手放すのもひと苦労でしょう。
「本当にこの考え方を手放していいのか」
という罪悪感に見舞われたり、葛藤したりする時期でもあります。
④新しいスキルを学ぶステップ
③まで持っていた考え方を手放すことができたら、最後に「自分がより生きやすくなるためのスキル」を身につけていきます。
適切なコミュニケーションスキルを使ってうまく他人の頼みごとを断るなど、自分を大事にするためのスキルを学びます。
アサーション・トレーニング(適切な自己表現のトレーニング)やSST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング=社会生活技能訓練)などを心の専門家と一緒に学んでいけると役に立つでしょう。
(アダルトチルドレンーー回復の4ステップ | アスク・ヒューマン・ケア (a-h-c.jp) 参照)
まとめ
アダルトチルドレンの生きづらさに対処し、回復の道をたどるには、相応の苦労があります。
心理的側面と社会的側面両方からのサポートを得ながら、時間をかけて回復への道を歩んでいくことになります。
ですが、サポートしてくれる機関はたくさんありますので、ご安心ください。
ひとりで抱え込まず、専門家のところをぜひ訪れて、生きづらさを解消していきましょう。