企業におけるさまざまな休暇や手当の中で最も申請がしにくい制度は「生理休暇(52.6%)」である、というアンケート結果があります。
次いで「更年期障害に対する休暇(36.6%)」「不妊治療に対する休暇(35.6%)」となっており、健康課題であるにもかかわらず、申請がしにくいという状況です。
「生理休暇」については「名前は聞いたことはあるけど、自分の会社で使えるか分からない」「誰でも使えるの?」「休んだら無給になるんじゃないの?」という声が多く聞かれます。
今回は、意外と知られていない「生理休暇」の利用状況や申請をする際の注意点などを紹介します。
まず、「生理休暇」の仕組みと利用する際のルールを確認しておきましょう。
参考:一般財団法人日本フェムテック協会とネオマーケティングのウィメンズヘルスリテラシー実態把握調査
生理休暇とは?
生理休暇とは「生理日の就業が著しく困難な女性労働者」が取得できる法定休暇です。
「生理日の就業が著しく困難」とは、生理を原因とする下腹痛、腰痛、頭痛などの症状のため、就業が難しい状況をいいます。
生理休暇に関する法律
生理休暇は、労働基準法により下記のように定められており、一定の要件を満たす場合には付与が義務付けられています。
生理休暇(労働基準法 第68条)
出典:「労働基準法」第六十八条
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
このように法律で定められている休暇(法定休暇)のため、事業所の就業規則に「生理休暇」の記載が無かったとしても、女性労働者から休暇取得の請求があり「生理日の就業が著しく困難」な場合には取得を認める義務があります。
生理休暇の取得状況と取得が進まない理由
女性労働者の権利である「生理休暇」ですが、現在の取得率はどのくらいでしょうか?
最新の厚生労働省の統計を参考に確認しましょう。
生理休暇の取得状況
厚生労働省が実施した調査によると、生理休暇を請求した女性労働者の割合は「0.9%」※となっています。
※女性労働者が在籍している事業所のうち、平成31年4月1日〜令和2年3月31日の間に生理休暇を請求した女性労働者の割合。
つまり「制度としてはあるものの利用をしていない」という状況です。(前回調査(平成27年)の取得率も「0.9%」)
生理休暇の利用が進まない理由
では、なぜ生理休暇の利用が進まないのでしょうか?
日経BP総合研究所「働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活調査」によると「生理休暇の利用しにくさ」に当てはまるもので最も多かったのは「男性上司に申請しにくい(61.8%)」、次に「利用している人が少ないので申請しにくい(50.5%)」となっています。
- 「男性上司に申請しにくい」61.8%
日本では女性の管理職が少ないため、男性の上司を持つ女性労働者が多く、申請がしにくいともいわれています。
令和2年度雇用均等基本調査(厚生労働省)では、女性管理職(課長相当職以上)を有する企業割合は「52.8%」となっており、最近10年間は概ね50%台で推移しています。
つまり、約半数の企業で「少なくとも1名は女性管理職がいる」という状況にあります。
しかしながら、課長相当職以上の「管理職に占める女性の割合」という切り口でみると、課長相当職の女性の割合は「10.8%」となり、「10人中1人が女性、残り9人が男性」というアンバランスな状態になっていることが分かります。
このような状態が、生理休暇の利用が進まない原因の一つと考えられます。
- 「利用している人が少ないので申請しにくい」50.5%
「生理休暇を普段利用しているか?」という質問に対して、生理休暇制度がある事業所に勤める方で「ほぼ毎回利用している(1.9%)」「たまに利用している(5.6%)」となっており、利用率の低さが伺えます。
周囲で利用者が少ない状況が、さらに利用率を下げるという悪循環が起きています。
参考:
働く女性と生理休暇について(厚生労働省)
働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活調査(日経BP総合研究所)
生理休暇における給与の扱い
生理休暇を取得して会社を休んだ際、賃金はどのような扱いになるかを確認します。
労働基準法の解釈や過去の事例からは「有給でも無給でも差し支えない」となっており、事業所ごとの判断となります。
それでは、現状としてはどのくらいの割合の事業所が有給としているのかを見てみましょう。
生理休暇を有給としている事業所は約3割
就業規則等で生理休暇中の賃金を「有給」と定めている事業所の割合は「29.0%」、「無給」は「67.3%」となっています。※「不明」が「3.7%」
6割超(67.3%)の事業所が生理休暇を「無給」と定めているため、多くの女性労働者は生理休暇の申請は行わずに有給を使用して休む、もしくは無給(欠勤)という選択を余儀なくされています。
生理休暇を有給としている産業は?
産業別にみると、「電気、ガス、熱供給、水道業」が80.8%で最も高く、「宿泊業、飲食業」が12.1%と最も低くなっています。
ただ、先ほど述べた通り労働基準法の解釈では「有給でも無給でも差し支えない」となっているので、無給を選択していても法律的には問題がありません。
【生理休暇を有給にしている割合が高い産業】
- 「電気、ガス、熱供給、水道業」80.8%
- 「金融業、保険業」69.1%
- 「複合サービス事業」58.2%
【生理休暇を有給にしている割合が低い産業】
- 「卸売業、小売業」26.9%
- 「生活関連サービス業、娯楽業」16.8%
- 「宿泊業、飲食業」12.1%
仕事を探す際の基準の一つとしても良いかもしれません。
(全産業の結果は、以下、厚生労働省の統計結果よりご確認ください。)
生理休暇を有給としている事業規模は?
事業規模別では「500人以上」の事業所では半数以上で生理休暇を有給と定めており、事業規模が小さくなるごとにその割合が低下しているのが分かります。
- 「500人以上」57.1%
- 「100人~499人」40.4%
- 「30人~99人」33.3%
- 「5人~29人」27.8%
参考:「令和2年度雇用均等基本調査(厚生労働省)」「母性保護法制度の利用による不就業期間の賃金の取扱い別事業所割合」の統計より
生理休暇を利用する際に知っておきたいこと
生理休暇を利用するルールについて、確認しましょう。
取得日数
生理の期間や痛みの程度には個人差があるため、生理休暇を取得する日数に制限はありません。
企業側も就業規則その他によって、その日数を限定することはできません。
また、必ずしも1日単位で取得する必要はなく「半日」や「時間単位」で取得することも可能です。
雇用形態
正社員、契約社員、請負社員、パート、アルバイトなどの雇用形態に関わらず、休暇を申請することができます。
「生理休暇」の趣旨から考えても当然のことではありますが、どのような雇用形態でも申請が可能です。
診断書
診断書の提出は必要ありません。
「生理休暇」の申請方法は、メール、電話など事業所ごとに定めています。
また、申請先については直属の上司が一般的ですが、人事部門の女性社員が相談窓口として申請を受け付け、社内で共有するという取り組みをしている事業所もあります。
生理休暇を取得しやすい取り組みを進めている企業の事例を紹介
「生理休暇」の利用状況や申請方法、また、申請をする際の注意点を解説しました。
利用率が低いという現状の課題を踏まえて、各企業ではさまざまな対策に取り組んでいます。
企業や働く女性に対して、母性健康管理や女性の健康問題に関する情報を提供している「働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)」から生理休暇を取得しやすい取り組みを進めている企業の事例を紹介します。
「生理休暇」を「エフ休暇」に名称を変更。PMSでの休暇も可能に
【製造業(大阪府)/従業員数 409名】
《取り組み内容》
- 生理休暇の名称と適用範囲を変更:生理休暇を「エフ休暇」※と変更
※「エフ休暇」の「エフ」は英語で女性を意味する「female(フィメール)」から由来 - 生理だけではなく、生理前の不調であるPMSでも生理休暇を取得できるように適用範囲を拡大
- 不妊治療のための休暇を新設:不妊治療を行う男女ともに取得ができる休暇
《効果》
- 名称、適用範囲を変更後に「生理休暇」の利用者が2倍に増加。
休暇の申請方法を変更。女性管理職へ社内LINEでOKに!
【建設業(島根県)/従業員数 29名】
《取り組み内容》
- 休暇の申請先を総務の女性管理職へ変更。連絡方法も社内LINEを利用し、連絡しやすくした。
- 「生理特別有給休暇制度」を新設。
- 不妊治療の相談窓口として、女性幹部、管理職が対応。
《効果》
- 現場で働きたいという女性が増えてきた。
男性も利用できる有給の「健康休暇」を3日間付与
【製造業(愛知県)/従業員数 1,792名】
《取り組み内容》
- 「健康休暇」として、生理だけではなく更年期障害、不妊治療等にも利用可能な休暇を創設。元々、生理休暇として年12日間の有給休暇を設けていたため、女性は「健康休暇」として合計15日間の有給が付与されている。
- 「健康休暇」は男性も健康診断やワクチン接種などで利用が可能。
《効果》
- 「男性の上司には生理で休みを取りたいとなかなか言い出すことができなかったが「健康休暇」としてもらい、非常にありがたかった。」という声が挙がっている。
参考:働く女性の心とからだの応援サイト(一般財団法人女性労働協会)
まとめ
生理休暇について、利用状況、申請をする際の注意点を紹介しました。
「利用率が1%に満たない」「利用した際は無給となる事業所の割合が6割超」など、課題はありますが、厚生労働省も企業へ利用を促進するための働きかけを行い、改善を目指す企業も増えてきています。
生理休暇に限らず、昨今、女性が働きやすい環境を整える動きが活発になっています。健康的に長く仕事を続けられるよう、権利は積極的に利用したいですね。