2024年7月6日、松本市にある長野県看護協会の4階大ホールにおいて、信州母子保健推進センター(長野県)、長野県助産師会、長野県看護協会の共催による妊産婦等の周産期メンタルヘルス支援に関する支援者研修会が開催されました。
この研修会は、周産期メンタルヘルスに対する理解を深めるとともに、看護職者の支援や連携の在り方を学ぶことを目的として開催されており、今回のテーマは「周産期メンタルヘルス支援体制の構築を考えるー長野県の周産期看護を繋ぐためにー」。
県内の看護師や助産師、保健師など、周産期や産婦人科領域、地域母子保健に関わる方々119名が参加されました。同じ課題感を持った各団体が、初めて共催という形で開催した今年のシンポジウムへ、famitasu主宰の塚越が取材に伺いました。
行政・看護師・助産師の各立場での取り組みを紹介|取り組みの上での課題とは
長野県行政で母子保健に携わる森谷氏から、県全体の取り組み状況についての紹介がされました。取り組みにおいては、特に以下の点が強調されていました。
- 自己負担額の軽減
- 里帰り出産の支援
- 相談体制の充実
- 産後メンタルヘルス支援の強化
- 支援者のスキルアップ
- 早期支援体制の構築
- 妊産婦メンタルヘルスに関するネットワーク構築
次にモデレーターである信州大学医学部保健学科教授の中込先生から、これまでの支援の繋がりについて述べられ、現場の保健師や助産師が取り組みを推進する中での課題について議論されました。具体的には周産期うつの周知活動や、実際の課題のヒアリング、きめ細やかな手続きの支援について触れられました。
長野県助産師会の鹿野氏は、2023年より信州大学の村上先生と連携を開始し、現在は助産師よろず相談に取り組んでおり、少子化対策や産後ケアの重要性、家族支援の必要性についても強調されていた印象を受けました。
また信州大学医学部附属病院の助産師である藤井氏からは、困難に感じた事例について共有され、ハイリスクの妊産婦に対する支援の重要性を訴えられました。特に、既往歴の重要性や精神科との連携について解説し、その際に感じた改善ポイントとして誰がリードしてこの問題を解決するか、もっと関係各所と話し合う必要があると述べられています。
そして同県中野市役所の保健師である池田氏からは、市町村が行う母子保健の取り組みについて話され、住民票と居住実態が異なるケースや精神科受診の問題について触れられています。
研究と臨床の現場から専門家による講演
続いてシンポジウムとフロアディスカッションのあと、村上寛先生と中込さと子先生による講演がありました。
それぞれの講演の様子を紹介します。
村上寛先生による「周産期メンタルヘルスにおける最重症症例から考える多職種支援」
信州大学医学部・周産期のこころの医学講座でも講師を務める村上寛先生は「周産期メンタルヘルスにおける最重症症例から考える多職種支援」というテーマで話をされました。さらに産後うつの定義や早期介入の重要性についても解説されました。
また、過去の精神疾患やストレス要因、死産の既往などが妊娠出産に与える影響についても説明し、具体的な症例を交えて多角的な評価の必要性を強調しています。
中込さと子先生による「母子健康の現場で相手の気持ちに寄り添うためのスキル」
前半でモデレーターをしていた中込さと子先生は、「母子健康の現場で相手の気持ちに寄り添うためのスキル」というテーマで、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の背景や新定義、女性の自主性や自由に性を選ぶ権利について講演されました。
また、妊産婦やその家族のサポートプランの重要性や、プレコンセプションケア(妊娠前ケア)の必要性についても述べられました。
実際にプレコンセプションケアとして、葉酸サプリメントの配布から自分自身や家族への健康への意識を持ってもらうという活動をされています。
そして、地域に戻ってからも助産師と繋がっていられる連携が重要という視点についても話されていました。また医療機関としても、精神科を含めた連携体制を取ることの重要性も強調されています。
これらを通して、周産期うつの支援においては「顔が見える関係」が重要とわかり、さらに地域をまたがるケースでの連携の課題についても議論されました。その中で産後ケア事業の推進や支援体制の強化についても触れられています。
その後、各自治体に分かれて、保健師・看護師・助産師が文字通り「顔が見える」グループディスカッションをして、地域の周産期女性への支援連携について議論を深めていました。
長野県の周産期うつへの支援から捉える、周産期メンタルヘルスケアに求められる姿勢とは
この研修会を通じて、参加者である各自治体の保健師・看護師・助産師は、周産期メンタルヘルス支援に対するそれぞれの理解を深め、支援体制の強化に向けた具体的な方法を学んでいました。
長野県看護協会によってこれまで実施されてきた周産期メンタルヘルスに関する研修は、3年目を迎えており、これまで県や助産師会でも、同じような周産期メンタルヘルスに関する課題を感じそれぞれ研修会を実施していたそうです。そんな中、今回初めて共催で実施できたのは、連携強化への大きな一歩となるかもしれません。
ただこのように、各自治体や団体に委ねるだけで良いのかという、問題意識を持ちました。
今後も地域全体での連携を強化し、妊産婦とその家族への支援を充実させることが求められるのではないかと感じます。