子ども家庭庁は令和4年度(2022年度)の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)を公表し、1990年度から32年連続で増加していると発表しました。
私たち子育て中の親にとって「しつけ」と「虐待」の違いはどこにあるのか、育児の過程で誰かが教えてくれるわけではありませんし「もしかして、自分が……」と不安に感じることもあると思います。
そこで、今回は子育て中のママ、パパが子どもとの向き合い方を考えるきっかけになるよう、二児の父親であり社会福祉士、メンタルヘルスマネジメント認定試験(マスターコース)取得の筆者が「最新統計から分かる児童虐待の現状」、「虐待の類型と具体例」さらに「虐待が起こる原因は何か」について説明しきます。
記事の最後に、困った時の相談窓口についてもご紹介させていただきます。もし、現時点でご心配を抱えているという方は、最初に相談窓口についての記事からご確認いただいても構いません。
「この行動も虐待に含まれるの!」と意外に感じるものがあるかもしれません。何か一つでも新しい発見がありましたら幸いです。それでは、始めていきましょう。
子ども虐待防止「オレンジリボン運動」はご存知ですか?
乳がんの早期発見を啓発する「ピンクリボン運動」、障害のある方の自立・社会参加を普及する「イエローリボン運動」など、様々な目的をもったリボン運動が行われています。
その一つ「オレンジリボン運動」は何を目的とした運動か、ご存知でしょうか?
「オレンジリボン運動」は「子どもの虐待のない社会の実現」を目指す市民運動の名称になります。
具体的にどのような活動をしているのか、一例をご紹介させていただきます。
プロ野球の試合でイベントを開催、野球少年たちと一緒に募金活動を実施
FWD生命株式会社(以下FWD生命)は、プロ野球オリックス・バッファローズのゲームスポンサーとして、2023年9月17日(日)、オリックス・バッファローズ対東北楽天ゴールデンイーグルスの試合で『FWD生命オレンジリボン運動デイ』を開催しました。
『FWD生命オレンジリボン運動デイ』では、子どもの虐待防止のための「オレンジリボン運動」をより多くの方に知ってもらうための広報活動の他、学童軟式野球に参加している小学生約50名を招待し、FWD生命の社員と一緒に募金活動を行いました。
集まった寄付金は「児童虐待防止全国ネットワーク」へ寄付をされています。
このような身近な活動から、児童虐待防止への関心が高まることを目指している運動です。
シンボルマーク「オレンジリボン」
「オレンジリボン運動」のシンボルマークである「オレンジリボン」。このオレンジ色は、「子どもたちの明るい未来」を表しています。
「子どもたちの明るい未来」を目指して、このような運動が行われる背景としては、近年の児童虐待件数の増加が挙げられます。
私たち子育て中のママ、パパは「子どものために」という思いで、時には強い言葉で叱ったり、注意をすることがあると思います。
自分の子どもがお友達と喧嘩してしまったり、言うことを聞かなかったり、様々な理由がありますよね。
「ちょっと、言い過ぎたかな……」「別なやり方があったかもしれないな……」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
しかし、誰かが「しつけ」と「虐待」の境界を教えてくれるわけではありませんし、判断基準がない中で「自分で気づく」のは難しいです。
そこで、まずは児童虐待について正しい情報を知る為に「児童虐待の現状と類型」についてご説明をさせていただきます。判断基準の一つとしてご参照ください。
最新統計で知ろう、一目で分かる児童虐待の現状
令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)
2023年9月7日、子ども家庭庁は令和4年度(2022年度)の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)を公表しました。
相談対応件数は「21万9,170件」で、令和3年度(2021年度)から「1万1,510件(+ 5.5%)」増加し、過去最多の件数を更新しています。
残念ながら、死亡事例も68件(74人)発生しており、心が痛む結果となっています。残念ながら、死亡事例も68件(74人)発生しており、心が痛む結果となっています。
参考:令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)子ども家庭庁
虐待の類型と具体例
次に、児童虐待にはどのような類型があるのかを見ていきたいと思います。
児童虐待の類型はその特徴から4つに分類され、前述の「令和4年度(2022年度)の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)」によると、以下のような割合(件数)になっています。(①+②など複数の類型が重複している事例もあります)
- 心理的虐待:59.1%(12万9,484件)
- 身体的虐待:23.6%(5万1,679件)
- ネグレクト(育児放棄):16.2%(3万5,556件)
- 性的虐待:1.1%(2,451件)
全体の約6割、過半数を「心理的虐待」が占めている結果になっています。そもそも「心理的虐待」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。厚生労働省の示す定義をご紹介させていただきます。
心理的虐待とは?
- 言葉による脅し、脅迫すること
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すこと
- 子どもの心を傷つけることを繰り返し言うこと
- 子どもの自尊心を傷つけるような言動をすること
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをすること
他にも、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう行為も「面前DV」という心理的虐待に分類されます。
また、親から子どもへの「しつけ」が「虐待」と見られるケースについて、以下のような具体例がありますので、一緒に見ていきましょう。
- 過干渉
- 過度な管理
- 価値観の押し付け
- 精神的一体感を求める
例えば、高学歴、社会的地位の高い親が「自分の子どもにも同じようになって欲しい」という思いから、レベルの高い学校を目指して学習を強要したり、その結果、思ったような成果が出ない時に叱責をしたりというのは「過度な管理」「価値観の押しつけ」に当たります。
勉強を例にご説明させていただきましたが、スポーツやピアノなど芸術活動にも同じことが言えます。
子育てにおいて、子どもの将来を思うことは大切なことですが「親と子どもは別な人格」であることを理解し、バランスの取れた親子の関係性を築くことが重要になってきます。
それでは、児童虐待は何が原因で起こるのでしょうか?その一例を見ていきたいと思います。
児童虐待が起こる原因は何か?
児童虐待が起こる背景は「身体的、精神的、社会的、経済的などの要因が複雑に絡み合い、この結果として生じるもの」と考えられます。
厚生労働省では、児童虐待にいたる恐れのある要因(リスク要因)を3つに分類しています。一つずつ見ていきます。
保護者側のリスク要因
- 妊娠そのものを受容することが困難(望まぬ妊娠、10代の妊娠など)
- 子どもへの愛着形成が十分に行われていない(妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで、胎児への受容に影響がある。長期入院など)
- マタニティブルーや産後うつ病など精神的に不安定な状況
- 元来、性格が攻撃的、衝動的
- 医療につながっていない精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存
- 被虐待経験
- 育児に対する不安やストレス(保護者が未熟など)
子ども側のリスク要因
- 乳児期の子供
- 未熟児
- 障害児
- 何らかの育てにくさを持っている子ども など
養育環境のリスク要因
- 未婚を含む単身家庭
- 内縁者や同居人がいる家庭
- 子連れの再婚家庭
- 夫婦関係を始め、人間関係に問題を抱える家庭
- 転居を繰り返す家庭
- 親族や地域社会から孤立した家庭
- 生計者の失業や転職の繰り返しなどで経済不安のある家庭
- 夫婦不和、配偶者からの暴力など不安定な状況になる家庭
- 定期的な健康診査を受診しない など
私もそうですが「一つも当てはまりませんでした」というご家庭の方が珍しいのではないでしょうか。
例えば「保護者側のリスク要因」の「育児に対する不安やストレス」は、すべてのママ、パパが抱えているといわれても不思議はありませんし、「養育環境のリスク要因」の「夫婦関係を始め、人間関係に問題を抱える家庭」が「うちは、まったくありません!」、というご家庭の方が珍しいと思います。
つまり、少し親子のバランスが崩れてしまうことで、どのようなご家庭でも起こりうる可能性があり「特別なことではない」という認識が必要だ、ということです。
児童虐待かも?と思ったら
児童虐待が「少し親子のバランスが崩れた」状態から起こると考えると「自分の家は大丈夫かな?」と心配になる方もいらっしゃると思います。
児童相談所では相談窓口として、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」を設置しています。簡単に特徴をご紹介させていただきます。
「189(いちはやく)」の特徴
- 匿名でお電話ができます
- お電話を掛けた方の個人情報、相談内容に関する秘密は守られます
- 虐待の連絡だけではなく、育児の悩みについても相談できます
- 「189」にお電話をしていただくと、携帯電話の場合はコールセンターを通じて、固定電話の場合は発信した電話の市外局番から当該地域を特定し、お住まいの管轄児童相談所へ電話が転送される仕組みになっていますので、最寄りの児童相談所の電話番号を調べる必要がありません。
また、冒頭でご紹介をさせていただいた「オレンジリボン運動」は毎年11月に国や各自治体がキャンペーンを実施し様々な取り組みが行われます。この機会に各自治体の窓口でご相談をしてみるのもいいかもしれませんね。
まとめ
子育ての本当の大変さは、当事者であるママ、パパにしか分からないものです。
その大変さから、ご自身が苦しんでいたり、悩んでいたり、孤独を感じてしまったり。
例えば労働環境による身体的・心理的な負担や、家族、近所付き合いなど、親であるが故に感じる苦労もありますよね。
すべてを自分だけで抱え込まないことが大切です。
無理をせず、ご心配な事がある場合には、最寄りの児童相談所や子ども家庭支援センターなどにご相談ください。
参考:
全国児童相談所一覧(厚生労働省)
協議会加盟組織一覧(全国児童家庭支援センター協議会)
政府の取り組みとして、2024年4月1日施行予定の改正児童福祉法において「児童虐待防止・対応の充実」を重点的に変更しています。
児童虐待に関する正しい情報を知り、政府が進める必要な支援につながることによって、ご自身だけでなく、大切なお子様を守ることにつながります。
本記事が、これからのお子様との向き合い方の参考になりましたら幸いです。