障害や病気のため、一般企業での就労が難しい方を対象とした「就労継続支援」という障害福祉サービスをご存知でしょうか。
「就労継続支援」は雇用契約を結ぶ「A型」と、雇用契約を結ばない「B型」の2種類があり、それぞれ対象者、雇用形態、賃金などに違いがあります。
この記事では、就労継続支援「A型」「B型」の違い、利用までの流れ、良い事業所の選び方について解説します。
就労継続支援とは?
就労継続支援とは、障害や病気のために一般企業での就労が困難な方を対象とした障害福祉サービスのことを指します。 働く場を提供するとともに、知識や能力の向上のために必要なサポートを受けながら働くことができます。
また、就労継続支援は「障害者総合支援法」に基づいて実施されており「福祉的就業」と呼ばれています。
事業所数、利用者数
令和4年10月1日時点の厚労省のデータによると、就労継続支援事業所は約20,000ヵ所、設置されています(A型4,429ヵ所、B型15,588ヵ所)。
また、令和4年9月1カ月間の利用者数は約50万人です(A型10万1,448人、B型40万6,577人)。
就労継続支援A型とは?
A型で提供するサービスについて、厚労省のHPでは以下のように紹介されています。
「一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。」
「雇用契約に基づく就労が可能な労働者」が対象であることがポイントです。A型は雇用契約を結び、一定の支援を受けながら働くことができる障害福祉サービスになります。
仕事内容
仕事内容は各事業所によって異なりますが、こちらでは一例をご紹介します。
- パソコンを使用したデータ入力
- 飲食店での接客
- 野菜の袋詰め、販売
- 商品の梱包、発送
- 清掃
利用できる対象者
A型を利用できる対象者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、難病がある原則18歳〜65歳未満(平成30年4月から、65歳以上の方も要件を満たせば利用可能)で、以下の条件を満たす方が対象です。
また、A型では一般企業への就職活動と同様に、書類選考や面接があります。履歴書等の応募書類の準備や面接の対策が必要です。
雇用契約
A型では雇用契約を結びます。利用者の心身への負担を考慮し、約9割が短時間勤務(1日6時間未満)です。
参考:令和5年度障害福祉サービス等報酬改定検証調査 調査結果報告書(厚生労働省)P.96
雇用保険、労災保険
・労災保険は雇用形態(正社員、アルバイトなど)に関わらず、すべての労働者に適用されます。また、基準を満たせば有給休暇も付与されます。
雇用保険は、労働時間が週20時間以上の雇用契約の場合、加入する必要があります。
参考:年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています(厚生労働省)
社会保険
「労働時間が週30時間以上」などいくつかの基準を満たしている場合は加入できますが、前述の通り、短時間の雇用契約が多いため、健康保険、厚生年金保険は対象外になる利用者が多いのが現状です。
ただし、勤務条件によっては加入できる場合もありますので、事業所へ確認しましょう。
賃金
A型は雇用契約を結ぶため、都道府県ごとの最低賃金が適用されます。令和4年度の月額平均賃金は83,551円となっています。
参考:令和4年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省)P.1
月額平均賃金83,551円では生活が厳しいという方は「障害年金」との併用も検討してみましょう。障害年金は障害や病気により生活に支障が出た場合に一定の基準を満たすことにより支給される年金です。
また「障害者扶養共済制度」という公的制度もあります。毎月一定額の掛金を納めることにより、保護者に万が一の事があった際に、障害のあるお子様に終身年金が支給される仕組みになっています。
利用期間
利用期間に制限はありません。ただし、雇用契約書に契約期間の記載がある場合も考えられるため、事前に契約内容を確認しておきましょう。
利用までの流れ
A型は以下のような流れで手続きを行います。⑤サービス等利用計画案作成は利用者本人でも可能ですが、申請手続きが複雑なため、ひとりで進めていくには難しい場面があります。
そのため、指定特定相談事業者へご相談いただき、申請を行う上で適切なアドバイスを受けながらサービス等利用計画書の作成を進めると良いでしょう。
尚、サービス等利用計画書の作成に利用者負担はありませんのでご安心ください。
就労継続支援B型とは?
B型で提供するサービスについて、厚労省のHPでは以下のように紹介されています。
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。
A型での就労が困難な方に対して、雇用契約を結ばずに就労の機会を提供する場となっています。
仕事内容
就労継続支援B型での仕事内容は、これまで比較的簡易的な作業が多いのが特徴でした。しかし最近では、ホームページ作成、アニメ作成などのクリエイティブ系の仕事や、eゲームの大会運営など、パソコンを使った分野で新規参入する事業所が出てきています。
下記が仕事内容の例です。
- 軽作業
- 清掃
- ホームページ作成
- アニメ作成
- eゲームプレイヤー、大会運営
利用できる対象者
B型を利用できる対象者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、難病がある方になります。A型のような採用試験や面接はありません。見学や職場体験を通して、職場環境、業務内容の確認を行います。また、年齢の上限は設けられていません。
雇用契約
雇用契約はありません。福祉的就労の位置づけとなり、リハビリや職業訓練と同等にみなされます。
雇用保険・社会保険
雇用契約がないため、加入できません。
賃金
B型は最低賃金が適用されません。福祉的就労の位置づけになり「工賃」が支払われます。令和4年度の月額平均工賃は17,031円となっています。A型と同様、障害年金との併給や「障害者扶養共済制度」の利用も検討しましょう。
参考:令和4年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省)P.1
利用期間
利用期間に制限はありません。
利用までの流れ
B型の利用を検討する際は、以下のような流れで手続きを行います。
利用料
就労継続支援(A型、B型ともに)を利用する際には、利用料が自己負担となります。世帯(本人、配偶者)の収入に応じて4区分の負担上限額が設定されています。
就労継続支援事業所を利用するのに障害者手帳は必要?
障害者手帳の取得は必須ではありません。
市区町村窓口で「障害者手帳」「自立支援医療受給者証」「医師の診断書」のいずれかを証明書類として提出し「障害福祉サービス受給者証」の発行申請を行うことができます。
「障害福祉サービス受給者証」の発行後、利用する就労継続支援事業所と契約をすることで利用を開始できます。
就労継続支援事業所から一般就労へ移行できる割合
一般就労へ移行できる割合は、A型では25.1%(4,185人)、B型は13.2%(4,466人)となっています。
良い就労継続支援事業所の探し方
最後に良い就労継続支援事業所の探し方について、3つのポイントをご紹介します。
自分にとって最適な職場を探す
自分の障害特性に合った支援を受けられる事業所かどうかが大切です。「集中力が続かない」「他者とのコミュニケーションが苦手」など利用者の課題に対し、適切な支援が受けられるかどうか、見学や職場体験を通して確認しましょう。
探し方
まずは、お住まいの市区町村にある障害福祉窓口にご相談ください。ご自宅から通いやすい範囲にある事業所を紹介してもらうことができます。
他には、最寄りのハローワーク、WAMNET(独立行政法人福祉医療機構が運営)の利用がおすすめです。
スコアが高い
就労継続支援A型については「スコア」が参考になります。
「スコア方式」は過去にA型事業所で制度の趣旨に反する不適切な運営をする事業所が増加したことを受け、厚生労働省が導入した制度です。
例えば「就業規則に在宅勤務、フレックスタイム制の定めがあるとスコアが加算される」など実施しているサービスにより点数で評価をされています。
「スコア」は公表が義務付けられていますので「事業所名+スコア」で検索をして、事業所ごとの実績を確認してみましょう。
参考:令和3年3月厚生労働大臣の定める事項及び評価方法の留意事項について(厚生労働省)
参考:令和5年10月就労継続支援A型に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.9
まとめ
就労継続支援事業所「A型」「B型」の違い、利用までの流れ、良い事業所の選び方について解説しました。
一般就労以外にも「障害特性に合った支援を受けながら働く」という選択肢があることを知ることで、精神的に安心できるのではないでしょうか。
職場の雰囲気、支援員との相性も大切になりますので、ご自身にあった事業所を探してみましょう。