「子どもが生まれてからだんだんパパの元気がなくなってきた?」
「育児も仕事もがんばってくれているけど疲れてる?」
「ボーッとしたり急に怒ったりなんだか変…」
子どもが生まれてから仕事に家事に育児にがんばってくれるパパ。
ママもとっても助かっているけど最近ちょっとパパの元気がない、様子が変…と感じたことはありませんか?
令和4年度から「産後パパ育休」制度が始まるなど男性の育児参加が積極的になってきた現在、男性も育児うつを発症することがあるとご存知でしょうか?
近年男性の育児うつについての実態が明らかになってきました。
この記事では、男性の育児うつの実態と症状、まわりができるサポートなどを紹介します。
1. パパも育児うつになる!男性の育児うつの実態
育児うつは医学的に明確な定義はされていませんが、子育てに伴うストレスからおこるうつ症状です。
海外では2005年頃から父親の育児うつについてさまざまな報告がされており、日本でも近年女性だけでなく男性の育児うつについても着目されるようになってきました。しかしまだその実態が十分認知されているとは言えません。
1-1. 男性の育児うつ発症は10人に1人
2020年に発表された研究では、日本人男性の周産期うつ病発病率は約10%であると報告されました[1]。産後3~6ヶ月が発症のピークとされ、発症率は女性とほぼ差が無いことがわかりました。産後うつ・育児うつは女性特有のものではなく、パパもママと同じように発症する可能性があるのです。
1-2. 男性が育児うつになる原因 パパとして抱えるストレス
女性が産後うつ・育児うつになる原因は、ホルモンバランスの変化や育児に対する不安や環境の変化だとされています。男性にはホルモンバランスの変化はないのにうつになるのはなぜ?と思われますよね。
実は男性も子どもが産まれ育児をしていく中で強い心理的ストレスを抱えているといわれています[2]。
男は仕事、女は家庭といった昭和の考え方から「イクメン」と呼ばれる時代を経て、現代では男性も当たり前に家事育児をこなすという価値観が定着してきました。
一方で男性の労働環境は改善されておらず、所定外労働時間(残業)は平成以降横ばいで推移しています。子どもが生まれたのだからもっと稼がなければならないと考えるパパも少なくはないでしょう。そこに家事育児も加わり、その結果パパ自身が過労となってしまいます。
またこれまで仕事や趣味に没頭してきたパパの場合、子どもが産まれた後はそれがなかなか思い通りにはいかなくなります。自分が大切にしてきた生活を変化させなければならないというストレスがパパに重くのしかかります。
共通するのは「理想の父親像と現実とのギャップ」です。
家事も育児も行う「理想の父親像」や「男とはこうあるべき」という現代の固定概念が、知らず知らずパパ自身を追い込む要因となってしまうのです。
1-3.なぜ男性の育児うつは見過ごされてきたのか
なぜ現在男性の育児うつについてほとんど知られていないのでしょうか。
1つは日本の子育て支援がほとんど母親対象であるため。病院の母親教室や地域のコミュニティは産前産後のママが対象である場合が多く、パパが相談できる機関がなかなか無いのが現状です。
2つ目は病院や行政が父親と接触する機会が少ないため。産前産後の通院や出産により入院するのは母親であり、産後の新生児訪問、乳幼児健診などもママからお話を聞くことが多くなります。ママは必然的に家族以外の医療者や行政機関と接触する機会があり精神的な不調に第3者が気づき介入しやすくなります。一方でパパはそのような機会が少なく精神的不調が見過ごされる可能性があります。
3つ目はパパ自身が「自分はうつにはならない」と思い込んでいる可能性があるため。産後うつ・育児うつはまだまだ女性特有のものという認識が定着しており、パパが不調を感じても周囲に相談しない場合があります。その結果うつ症状が見過ごされ悪化してしまいます。
2. うつの症状となりやすい人の性格とは
2-1.うつと診断される症状をチェックしてみましょう
A
1.毎日、一日中、気分が沈んでいる。
2.なにに対しても楽しめなくて、興味がわかない
B
1.食欲がない。もしくは体重が減った。
2.寝つけない。夜中や朝方に目が覚めたりする。
3.話し方や動作が遅くなった。もしくは、イライラしたり落ち着きがない。
4.気力がなく、疲れやすい。
5.仕事や家事などに集中できない。
6.「自分には価値がない」とか「◯◯に対して申し訳ない」と感じる。
7.この世から消えてしまいたいとか、死にたいと考える。
①Aのどちらか、あるいは両方が当てはまり、AとBを合わせて5項目以上当てはまる。
②該当した症状が2週間以上続き、その症状により強い苦痛を感じていたり、社会的な機能
(仕事や家事など)が障害されていたりする。
出典:メディカルノート
うつ病は上のチェックリストのような症状がありますが、特に男性のうつ病ではイライラ、怒りっぽい、物に当たるなど攻撃的になることが特徴であるといわれています。
2-2.男性のうつ病になりやすい人の性格
・メランコリー親和型性格
まじめで責任感が強く、ルールや規律を大切にします。不調和が苦手で頼まれごとを断れなかったり自分の意見を通すことができず、気を使いすぎた結果ストレスが大きくなります。
・執着気質
まじめで責任感が強いところはメランコリー親和型と同じですが、完璧主義であり任務が完了するまで没頭します。そしてそれを他人にも要求してしまいます。努力が実らなかった時や周囲が自分と同じように努力しなかった場合に大きなストレスを感じます。
・循環気質
明るく社交的で一見うつとは無縁にみられますが、怒りっぽかったり興奮したり悲しんだりと気分にムラがあるのが特徴です。周囲の言動に振りまわされてしまい思い悩むことが多くなります。
3.男性の育児うつの予防法はある?
3-1.妊娠中からできる予防策
パパの育児うつを予防するためには、まず産後に夫婦ともにうつになる可能性があることを妊娠中から認識しておくことが大切です。病院の両親教室や行政が主催しているパパママ教室などにできるだけ参加しましょう。パパが妊娠出産育児についての知識をつけるだけでなく、そういった機会に助産師や保健師などと繋がりを持っておくことで産後に相談しやすくなります。
またパパの育休取得や時短勤務の検討、家事育児の分担、趣味にかける時間はどうするのかなど、パパ自身が何を変化させなければならないのか夫婦で一緒に考えてみましょう。
3-2.出産後にできる予防策
出産後は夫婦ともに家事育児から一時的に解放されることが大切です。夫婦で協力し合い一人の時間を作ったり、両親、ファミリーサポートや一時保育、ベビーシッターにお願いしたりする方法もあります。責任を持って赤ちゃんを育てることは大切ですが、負担がどちらか一方にかたよらないように調整しましょう。
4.パパが育児うつになりそうな時、まわりができるサポート
4-1.家族ができるサポート
出産・育児はどうしても女性主体になりがちですが、ママ自身が抱え込まず「二人でするもの」という認識を持ちましょう。産後の子育て教室などのイベントにもパパに積極的に参加してもらい、パパを家庭や社会から孤立させないことが大切です。育休が取れないパパの場合はなかなかパパが家事育児をする時間がありませんが、仕事の都合も考慮します。
しかし一番避けなければならないのは、ママの負担が大きくなりすぎて共倒れしてしまうこと。完璧を求めず、上でお伝えしたような赤ちゃんを預けられる支援を活用し、夫婦ともにリフレッシュしましょう。
4-2.社会ができるサポート
男性の育休取得率も上昇傾向ではあるものの2022年度は17%と、政府の目標である50%には程遠い結果となっています。企業は育休取得や労働時間調整の推進し、必要であれば産業医への受診を促すなどの取り組みが大切です。さらに社員への教育を行い、男性の育児うつへの理解を促し仕事優先である風潮を改善しなければなりません。
また育休取得を推奨するだけでなくその後のパパの相談先が無いことが問題です。行政はパパの子育て相談の機会を設けたり、男性の相談員を配置するなどパパが相談しやすい体制を整えることが求められます。
4-3.パパ自身ができるとりくみ
パパ自身も育児うつを発症する可能性があり、支援をうける必要があると認識することが大切です。現在子育てに関する父親支援事業が活発になってきています。夫婦で参加できる企画ももちろん良いですが、男性ならではの悩みもあります。ぜひ近くの自治体や企業が主催している父親向けのイベントがあれば参加してみましょう。
5.医療機関を受診するタイミング
もしパパの精神的不調が続く場合、精神科を受診しましょう。上でお伝えしたようなうつの症状の症状が2週間以上続く場合は受診がすすめられます。
ただし「死にたい」「消えたい」などの希死念慮や自殺行為が見られた場合は早急に受診する必要があります。
6.まとめ 男性の産後を予防・悪化させないために
子どもが産まれた後の育児うつは誰しもがかかる可能性のある病気であり、性別や役割を問わず子どもを育てるすべての人に支援が必要です。
大切なのは「ママこうあるべき」「パパはこうあるべき」といった固定概念を無くすこと。そのような思い込みが夫婦の溝を深め、うつの発見と治療が手遅れになってしまいます。
大切な赤ちゃんを迎えた今こそ、夫婦で一緒に「親」という視点に立ち、子育てというかけがえのない時間を乗り越えていきましょう。
[1] 日本人男性における周産期うつ病の有病率:メタ解析
Tokumitsu K, et al. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:65
[2] 日本の産後期における親の心理的苦痛:全国横断調査の人口ベースの分析
Takehara K, Suto M, Kato T. Parental psychological distress in the postnatal period in Japan: a population-based analysis of a national cross-sectional survey. Sci Rep. 2020 Aug 13;10(1):13770.