前編では、「怒り」の背後には一次感情(悲しい、不安、寂しい、苦しいなど)があることや、「怒り」には大きく分けて6つのタイプがあること、そして、特にアンガーマネジメントで対処しなければならない怒りの種類がある、ということをお話ししました。
後編では、具体的にその「怒り」にどう対処していくか、また、「怒り」に対処してもまだ残ってしまう「怒り」をどう適切に相手に伝えていくか、についてお話ししていきます。
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アンガーマネジメントの3つの方法
ここでは、「怒り」のコントロールのしかたについて、大きく3つに分けてご説明します。
「アンガーマネジメント」としてさまざまな方法が紹介されていますが、大きく分けて「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」があります。
衝動のコントロール
「怒り」を感じると、衝動的にカッとなってしまい、反射的に相手に怒りをぶつけてしまうことがあります。
これを防ぐために、いくつかの方法があります。
1. 6秒ルールを意識する
最初にカッとなって、少しおさまるまでには6秒かかるといわれています。6秒経つと冷静な判断が少しずつできるようになるので、まずは6秒待ちましょう。
2. その場を離れる
「怒り」を感じている相手のいるところから少し距離を置き、怒りがおさまるまで待ちます。
別の部屋に行くとか、トイレに行くとか、逃げ場がないなら外出するのもありです。
3. 深呼吸をする
浅く呼吸をすると人は交感神経がはたらいて攻撃的になってしまいます。できるだけゆっくり深呼吸を繰り返し、怒りがおさまるのを待ちます。
4. 怒りのものさし(怒りの温度計)でチェックする
たとえば怒りを「1~10」の段階に分けます。怒りが生じたときに、怒りが1~10のどのレベルにあるのかをチェックしましょう。こうすることで、自分の怒りの度合いを客観的にみることができます。
思考のコントロール
思考のコントロールについては、「怒り」を感じていない日常の状態で考えておく必要があります。
1. 怒りの許容範囲を分類する
「怒り」を感じたときに、自分にとって「これは怒る必要がある」「まあまあ許せる」「特に怒る必要はない」と分類していきます。
そして、「まあまあ許せる」の範囲を少しずつ広げていきます。
2. 自分の価値観を整理する
自分の価値観の中に「~すべき」と思う部分があるでしょう。あなたがどんなところに「~すべき」と感じてしまうのかを自分で把握しましょう。(前編で出した「怒りの6つのタイプ」が参考になります)
あなたが「どうしても許せない」と思うことがわかると、あなたの怒りのツボがわかります。
たとえば、友達と待ち合わせをしたときに、友達が5分遅刻したら「まあ許せる」だったとしましょう。同じ友達が連絡なしで30分遅刻したとします。
「遅れるなら連絡すべき。そもそも30分も遅刻するなんて非常識」
と思っていたら、友達に対してあなたは怒るでしょう。
その背後に、「待たせるのは失礼だ」と思っているからなのか、「何があったのか心配になってしまうから」なのか、そのほかなのか、背後にある気持ちも把握できていると良いです。
行動のコントロール
衝動をおさえても、頭で考えても、「やっぱりこれは許せない」という部分も当然出てくるでしょう。そんな場合には、どのように行動していくかを考えましょう。
ただただ「怒りをおさえる」だけではなく、「上手に怒りを伝える」ことも大事です。
1. 怒りを伝えるべき内容をどう伝えるか考える
思考のコントロールの段階で「これは許せない」「これは怒る必要がある」と判断した内容については、行動をコントロールしながら怒りを伝えていきます。
2. 自分の怒りの傾向を理解する
自分の怒りのツボ、どんなところで自分は怒りを感じるのかを理解しておきましょう。
また、怒りを感じるとどういう行動をしがちなのかも、把握しておきましょう。
怒りを感じるとつい怒鳴ってしまうのか、怒りを感じて相手に対し冷たく接するのか、怒りをおさえるあまりストレスが自分に向いてしまうのか、など、怒ると自分がどうなるのか。それがわかっていると、対策しやすくなります。
3. アンガーマネジメントは「怒ってはいけない」トレーニングではない
アンガーマネジメントは、決してあなたに「怒りはすべておさえなければならない」「怒ってはいけない」と言っているのではありません。
むしろ、本当に怒りの気持ちを伝えた方が良い場面では、適切な方法で怒りを伝えましょうというものです。
怒りの上手な伝え方
それでは、本当に怒りの気持ちを伝えた方が良い場面で、上手に相手に怒りを伝えるにはどうしたら良いでしょうか。
適切な怒りの伝え方をご紹介します。
怒りを伝えた方が良い場面
相手と自分の感情を共有し、問題を解決することが望ましいと判断されたときは、あなたの怒りを伝える必要があります。
ただの感情のぶつけ合いではなく、実際に抱えている怒りを適切に伝えることでお互いがよりわかり合えたり、より生きやすくなるのであれば、怒りを自分の中にためておかずに伝えた方が良いです。
怒りを伝える時のNGワード
それでは、実際に怒りを伝えるときに使ってはいけないNGワードをご紹介します。
- 前もそうだったんだけど……(過去の怒りまで持ち出す言葉)
- 人格否定的な言葉
- 相手ににはどうしようもない能力的な部分
これらの3つは、今相手が変えられない部分です。
怒りを伝えることで問題解決にもっていきたいのであれば、相手が変えられないところを指摘するのはNGです。
怒りを伝える時のコツ
実際に怒りを伝えるときのコツは、どういうポイントがあるでしょうか。
- 相手が変えられる部分に対して怒る(行動、事実、結果)
- 相手にどうしてほしいのかを明確に、かつ冷静に伝える
- 怒る側の「第一次感情(怒りの背後にあるあなたの気持ち―悲しい、つらい、苦しい、不安、心配など)」を相手に伝える
- あなたが怒りを伝えるときは必ず「私は~」を主語にする
たとえば遅く帰ってくる子どもに、
「私はあなたがなかなか帰ってこないと心配なの。だから〇〇時までに帰ってきてほしい。帰ってこれないならば、連絡してほしい」
このように、あなたの気持ちと具体的にしてほしいことをきちんと伝えていくことで、相手にあなたの気持ちが伝わりやすくなります。
アサーション・トレーニング
アサーショントレーニングは、よく「自己主張の訓練」と言われますが、正確には「自分の伝えたいことを、自分も相手も傷つかないように伝える方法」です。
ここでは簡単に方法をご説明します。
- まず、あなたが怒っている物事の事実を伝える
- あなたの怒りの感情を「第一次感情」で伝える
- その物事を相手がしてくれると、物事がどう解決するかを伝える
- 相手に受け容れられない場合は、代わりの案を伝える
たとえば、家事をしない夫に家事を協力してほしいとき、
「あなたが家事をしてくれないので、家事がたまってしまって(①)私はとても困っているの(②)。あなたが家事をしてくれたら、もっとスムーズに晩ごはんの用意ができるわ(③)。もし難しかったら、お皿洗いだけでもお願いできるかしら?(④)」
このような怒りの伝え方をしていけば、角が立たずに相手にあなたの要求を伝えることができます。
最後に
いかがでしたか?
実際に自分の怒りのコントロール法を身につけて、適切な伝え方をしていくには、少し練習がいるかもしれません。
それでも自分で怒りの性質を理解し、相手に適切に伝えられたら、相手の行動にも良い影響が出る可能性がありますし、あなたの怒りもたまらずに済むでしょう。
少しずつアンガーマネジメントのしかたを学んで、あなたも相手も日常生活をより快適に過ごせるようになると良いですね。